医学界では20世紀に入ると抗生物質の発見や遺伝子組み換え技術などの誕生により目覚ましい発展をとげます。
医学・薬理学の発達により創られた薬
1929年に、あるカビの一種から細菌の増殖を防ぐ効果のあるペニシリンという物質が抽出されました。
これはアレクサンダー・フレミングによる世界初の抗生物質で画期的な発見でした。
このペニシリン抗菌薬は、イギリスの当時の首相であったチャーチルを肺炎から救ったことで現在まで語り継がれています。
生物自体が産出するペニシリンのような物質を抗生物質と呼びますが、カビや放線菌などから臓器移植の免疫抑制薬で使用されるシクロスポリンやタクロリムス、感染症治療薬などが次々に発見されていきました
化学合成により細菌が産出するリード化合物を多様の分子を結合させて修飾し、次のような目的に合った様々な医薬品が開発されています。
- 抗菌力の増強
- 耐性菌にも効力
- 様々な細菌にも効果がある抗菌スぺクトルの拡大
- 病原菌の発見によりワクチンや抗毒素による免疫療法の基礎を確立
また、病気の発生原因物質からリード化合物を合成し、創られた代表的な医薬品としてはワルファリンが有名です。
牛・ヒツジが突然出血死するという事件がカナダ・アルバータ州で起こっていましたが、原因究明するとスイートクローバーという牧草であることがわかりました
スイートクローバーの干草からはジクマロールという出血惹起物質が抽出され、化学合成できたことにより、その後経口抗凝血薬として脳梗塞などの血栓予防や心臓弁手術後などに臨床使用されています。
なぜペニシリンは優れているのか?
細菌も細胞の一種で、最も外側の壁は強固で複雑な構造の「細胞壁」で包まれています。
ペニシリンを投与すると、感染症を治癒することができますが、そのしくみは、投与により細菌が強固な細胞壁を作ることができなくなり、細菌の本体が外に流れ出ることで死滅します。
一方、ヒトの細胞には細菌のような細胞壁はないので、上記のようなペニシリンの毒性作用の影響が少ないわけです。
二次的な副作用やアレルギーはありますが、深刻な感染症には、この構造上の違いが大変都合が良く効果を発揮します。
これがペニシリンの優れている大きな理由です。
今では、感染症治療に使用される重要な抗生物質であるペニシリン母体に類似したカルバペネム系、セフェム系など多くのペニシリン薬が、ペニシリンのリード化合物を修飾して開発されました。
動物・人体から抽出された薬
動物・人体からは多くのホルモンなどが抽出され、現在も医薬品として利用されており、次のようなものが有名です。
- ヘビの毒…止血薬ヘモコアグラーゼ、
- ニワトリの卵白…風邪薬にも配合されている消炎酵素薬リゾチーム
- 牛の肺…換気促進薬サーファクタント、
- 食用獣の臓器…甲状腺ホルモン、唾液腺ホルモン、オキシトシン(子宮を収縮させる)、インスリン(血糖を下げる)など
- 人間の尿…ウロキナーゼ(血液凝固を阻害する)
- 更年期婦人尿…下垂体性性腺刺激ホルモン
- 胎盤
このような生物由来の医薬品の中でもインスリンは特に有名です。
当初インスリンは、ブタやウシのインスリンを使用していましたが化学構造が人のインスリンと若干異なっていました。
その後、化学構造が解明され、化学合成又は遺伝子組み換え技術によって生産されたヒトインスリンが世間では広く使用されています。
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