医薬分業を国が推進してきたおかげで、調剤業務を行えるドラッグストアが増大し調剤薬局事務として活躍できる場も大きく広がった観がありますが、改めて医薬分業とは何かを調剤薬局事務を目指す方は理解しておきましょう。
1.医薬分業とは何か
医薬分業とは、患者さんが病院で診察を受けた後、医師から渡された処方箋を持って薬局へ行き、薬局の薬剤師から薬をもらう制度のことをいいます。
現在では、患者さんが病院や診療所などの医療機関で医師の診察を受けたあとに、医師が病気や怪我などの状態と照らし合わせて有効と判断される薬を選定し、処方箋(しょほうせん)という用紙に印刷または記載して患者さんに渡します。
処方箋には病気や怪我などを治療するための処方薬の種類や量などが記載されています。
患者さんが、この処方箋を「保険薬局」「保険調剤」「基準薬局」「処方せん取り扱い」などの表示がある「かかりつけ薬局」の受付窓口へ提示すると、その処方箋に基づいて薬剤師が薬を調剤し、患者さんに薬が渡され、薬の飲み方や効能効果、副作用などについての処方指導もしてくれます。
薬剤師は調剤するときに薬の組み合わせや量により、患者さんに副作用がでたりしないように確認をしたうえで処方しますが、このような制度のことを「医薬分業」と呼びます。
この「医薬分業」については、国をあげて具体的には厚生労働省が、現在も推進しています。
日本は、今後もますます高齢化社会になっていきますので、高齢者が複数の病院にかかることが多くなってきます。
最近では過去のさまざまな薬害問題が顕在化し、安全な医薬品の使用についても何らかの防止策が必要になり、また医師不足の問題もあり、多くの患者さんを効率的に診療するためには、「医薬分業」を推進し、医師が患者さんを診療するための時間を多く振り当てれるような体制が必要になってくるものと考えられます。
2.医薬分業の重要性
医薬分業を実施する最大の利点は、薬剤師という薬学のプロから患者さんの体質・体調を考慮した上で、適切な指導が行われることです。
もちろん、処方内容自体についても、患者さん各自の病傷、体質・体調、複数診療の場合は薬の飲み合わせなど適切な処方がされているかどうか専門家の視点でチェックが入ります。
この結果、医師と薬剤師で処方薬に対するダブルチェックが行われるということになり、安全性の担保という観点からとても重要なことです。
医師が診断し治療方法を決定後、必要な薬を処方し処方せんに記載して患者さんに渡します。
患者さんは、病気内容や治療方法については医師から説明を受け、薬の効果効能や服薬については、薬局で薬の専門家として対応している薬剤師より直に説明を受ける権利をそれぞれ有していることになります。
このような体制は、自分の治療に対して、担当医師とは立場の専門家から第2の意見として客観的な意見を得られるセカンドオピニオンという観点でも、たいへん大切なことです。
3.以前から法的に制定されていた医薬分業制度
超高齢化時代に突入した日本では医薬分業が推進されてきましたが、医薬分業制度は、当時の医療関連の法律が制定された時代から、本来実施するように規定されていたもので、最近になって制定されたものではありません。
この事実は、知らない方がほとんどだと思いますが、これには理由があります。
法律制定時の日本では、処方せんに基づき調剤できる薬局がほとんどなかったという時代背景があり、患者さんに不利益を与えないための例外措置で医療機関内で薬を処方調剤し渡すことが許されていたためです。
このような事情から長年に渡り、病院内で薬を受け取れる状況が続いてきましたが、高齢化した患者数の増大に伴う国の多額の医療費の抑制が必要になり、元来から定められていた法律を順守するように、国から指導が行われました。
また現在では処方箋に対応できる調剤薬局(通称名)やドラッグストアが全国各地に開業されており定着してきたという経緯があります。
4.医薬分業を進める目的とは
医薬分業を進める目的とは、どのような理由があるのでしょうか?
現在なぜこの「医薬分業」が必要なのでしょうか?
目的は大きく分けて以下の3項目が考えられます。
4-1.より良い医療サービスの提供
現在、病気などの治療方法としては、薬による治療が圧倒的に多いため、患者さんがかかりつけ薬局を持つことにより、かかりつけ薬局では、薬歴簿などで患者さんの薬歴を一元管理できます。
そのため、事前に安全な薬の処方ができ、薬剤師によって薬に対する効果や処方についての適切かつ効果的な説明を受けることが出来るようになります。
患者さんは安心して薬を服用することができます。
また医療の専門家である医者と医薬品の専門家である薬剤師の二重のチェックにより、医薬品の効果と安全性を更に高め、より良い医療サービスを提供することができます。
4-2.安全で安心な医薬品の使用
今後もますます高齢化が進んでいくことが予想されていますが、誰もが年齢が高くなってくると、さまざまな病気や怪我になる可能性が高くなってきます。
病気を併発すると、複数の病院や診療科を受診することになり、処方される薬の種類も多くなってきますので、場合によっては、処方薬の掛け合わせや量によって、副作用などの薬害が発生することも十分考えられます。
しかし、一つのかかりつけ薬局を持つことにより、薬歴簿による薬歴の管理をしてもらえば、このような問題を事前に防ぐことが可能になります。
4-3.医療費を適正化
一般的には、医薬品の費用が医療費のうちで一番多くかかります。
従来の制度ですと、患者さんに対して薬の過剰投与や重複投与など、必要以上に薬を処方されることもあり、医療費も同様に必要以上に出費される可能性がありました。
これは国の医療費も増加し、財政が圧迫されます。
このように国や患者さんにとってマイナスになることは良いことではありません。
医薬分業を推進することにより、薬の過剰投与や副作用などの問題も未然に防止され、その結果、医療費を適正化することが期待できます。
かかりつけ薬局選びの目安として、日本薬剤師会から推奨されているのは、薬剤師会がつくった制度で「基準薬局」というものがあります。 基準薬局とは、日本薬剤師会が定める基準をクリアし認定された薬局をいいます。
日本薬剤師会の公表によると、推奨するかかりつけ薬局なら、以下のことについて責任をもって対応しているようです。
- 責任を持って処方せんを調剤いたします。
- 薬について、いつでも説明・相談にお答えします。
- あなたの薬歴(お薬の使用の記録等)を作り、 薬の重複や飲み合わせなどを確認します。
- 寝たきりの患者さんなどには、ご自宅まで薬をお届けし、説明・相談に応じます。
5.医薬分業のメリットとデメリットについて
5-1.医薬分業のメリット
医薬分業のメリットは次の通りです。
- 診察や治療については病院の医師が専念し、処方薬については処方箋に基づき薬剤師が調剤することにより、薬の処方内容が明らかになるので、薬が安全に使用できるようになります。
- かかりつけ薬局を決めておくことにより、患者さんの薬歴を管理できるので、その患者さんにどんな薬の副作用やアレルギーがあったかが把握でき、処方する際も過剰投与や重複投与などの薬害も事前に防止することが可能です。
- 診療は医師で、処方薬は薬剤師で、というように分業することにより、処方内容を別々の専門家がチェックすることができます。
- 複数の病院からだされたの処方箋の薬が重複していたり、副作用を起こす可能性がある飲み合わせがある場合などは、医師に薬剤師が直接問い合わせすることもでき、処方内容の変更や中止などの処置をとることもできます。
その結果、患者さんはお薬に対する安心感を得ることができます。 - かかりつけ薬局の薬剤師が調剤することにより、薬情(薬剤情報提供書)に記録された薬の名前や飲み方、効能や効果、副作用などについての具体的な薬の説明や服薬指導が受けられ、お薬手帳にも薬の情報が記録されます。
このことにより、患者さんは、薬に対する相談や要望が容易になり、納得した後、安心して薬を服用することができます。 - 基準薬局では、寝たきりの患者さんなどには、薬を自宅まで届けてくれますし、説明や相談にも応じてくれますので、在宅医療に使用される医薬品などがスムーズに提供しやすくなります。
5-2.医薬分業のデメリット
その一方で以下のような若干のデメリットも発生します。- 診療のため病院や診療所に行き、その後処方薬をもらうために調剤薬局を訪れますので、患者さんにとっては、二度手間になります。
- 地域にもよりますが、患者さんの自宅周辺に、調剤薬局が存在しないことがあります。
- 患者さんが病院でお薬を直接もらうよりも、調剤薬局で処方箋によりお薬を処方してからもらう場合は、若干ですが、薬代の負担額は高くなります。
- これは、調剤薬局では患者さんに対して、薬の使用した薬歴を記録したり、薬剤師によって、服薬指導を行うことが義務付けされていますので、少しですが高くなります。
以上が、医薬分業のメリットとデメリットになります。
厚生労働省のデータによると、
「医薬分業は順調に進展しており、平成17年度の処方せん枚数は約6億5千万枚、医薬分業率は54.1%、対前年度比0.3ポイント増となっている。」と発表されています。